夜の区政会議に合わせて、ズレ勤務で遅めに出る。
自転車で行くつもりで水筒にたっぷりお茶を詰めたら、雨だとゆる夫が言う。徒歩と電車で行くのに、カバンが重いのは辛い。でも水筒は持っていきたい。持ち帰っていた文科省の論点整理と大阪市教育振興基本計画の束をカバンから出し、少し軽くした。
「長女は大荷物」というフレーズを、向田邦子のエッセイで若い時に読んでからずっと呪いにかかっている。
私が1歳の時に別れ、48歳になってようやく再会した実姉がいるので実のところは長女では無い。でも幼いころから「長女」を背負わされてきたので、アレもコレも心配だわ要るんじゃないの慌てたくないよねと大きな荷物をこしらえ、五十肩を長引かせている。
マシになった荷物を抱えて傘を差し、駅に向かう。
職場について、すぐに来訪者がある。地域活性化に熱心な方で、悩ましい課題の解決にも尽力してくださっている。魅力的な企画をたくさん聞かせてもらった。私の発信をチェックしてくださっているようで、いろいろと気にかけていただいて恐縮する。まちのために動く人は、ただ尊敬しかない。
その後はレクやメールでの調整を経て、お昼はカップスープにパンが入ったもので済ませ、築港小学校に総合政策担当の係長と出向く。
今日は築港の「創作寿司ひかり」のオーナー、牧香代子さんと料理長の道上陽輔さんが6年生にキャリア教育の授業で出張してくれる。以前、灘中学校で実施したそうで「地元でもやりたい」と言うのを聞いてすぐ校長先生につながせてもらった。せっかくの機会なので見ておきたい。
係長は前に防災担当をしていた時、「おもてなし防災プロジェクト」の記者発表で道上さんにトークセッションを依頼した経過があり、えらく相性がいいので一緒に来てもらった。再会した瞬間から「お初にお目にかかります!」「お名刺今出しますね」と何度も会ってるくせに2人でチョケ始め、誰か小学生かわからない。
教室では牧さんが「飲食店の10年後の廃業率」を示し、90%という高さに子どもたちが驚く。よく透る声とひきつける話術、どんな答えにも褒めるコメントで返す瞬発力がすごい。教員も勉強になったと思う。
飲食店のオーナーという仕事があること、そして寿司職人として道上さんを紹介してバトンを渡す。
道上さんは小学校2年の時に卵焼きを作っている母親をカッコいいと思い、料理人になろうと思ったことから話を始めた。
そして、辻調理師学校で出会った寿司職人に憧れて高級すし店で修業をしたこと、途中でラーメン店を自営して3年で廃業したこと、その原因も人を育てることがうまくできなかったと正直に話し、牧さんと出会って今の店を任された話をしてくれた。
最初に牧さんが廃業率を語ったのが実感として、こどもたちに伝わる。失敗を語れる大人は、貴重だ。
そこから教室に持ち込んだ包丁とまな板、食材を前にプロの仕事を見せる。こども達は道上さんを取り囲んだ。「この魚、何かわかる人?」と手のひら2枚分ほどの黒っぽい魚を見せる。「マグロ」と答えた子がいて、いかに今のこども達がリアルな魚を知らないかわかる。海遊館にもマグロはおらんしな。
これは「グレ」という魚だよと、鮮やかに3枚に下ろした。半身をサクにして、さらに寿司ダネの大きさに切る。1匹の魚の半身から3枚しか取れない。
「この魚は1500円で仕入れて、たったこれだけしか寿司にできない。ということは、高くしないと利益が出ないよね。くら寿司やスシローが安いのは企業努力の結果」と原価率をリアルに感じさせてくれた。
切り身の両面にすらすらと隠し包丁を入れ、醤油ノリがよくなり、シャリの形になじませるためと説明する。こどもたちが夢中で聞いている。生のわさびを下ろし、わさび入りと抜きのサーモンとマグロの寿司を小学生の注文を聞きテンポよく握っていく。
合間の会話の上手さは、カウンターで何度も聴いている。8割が外国人観光客の店で料理を作りながら「おもてなし」を実現している姿が、今日は教室で再現されてこども達を魅了していた。
生野区でも港区でも、産官学+地域連携の学校支援ネットワークを作った。地元の企業やプロに出会うことで生野区や港区で大人になる、働くイメージが育つからだ。港区の時にはキャッチコピーを「カッコいい大人に出会えるまち。」と自分でつけた。
こどもが「なんでそんなに早く握れるんですか」と質問したのに、「量」と即答したのにしびれる。
最後に、AIがなんでもできるようになる時代だからこそ「職人」という仕事も選択肢に入れてほしいと言ったプロの言葉に、地元の小学生が力強くうなずいていた。係長と「カッコよかったなぁ」と感想を言いながら帰った。
つなぎ役ではあったが、教育は未来の投資だとつくづく思う。材料費など負担してまでやってくれた牧さんと道上さんにお礼を言いに、4月になったらお店に行こう。
いい気分で戻り、土曜日の講演準備をする。優秀な今の防災担当が作ってくれた資料をベースに、視覚障害の方向けの講演なので「音声だけでもわかりやすい・役立つ・飽きない講演原稿」を仕上げる。難しいけれど勉強になる。「量」が私のスキルを引き上げる。
そのプロセスで大阪市の防災について気になることを、改善できないかの相談メールを然るべきところに送る。引き受けた以上は、自分にも組織にもプラスにしたい。
その後は、定例の区内の児童福祉にかかるレクを受けて、絡まった糸をどうすればほどけるのかみんなで悩む。ケースごとに原因や課題や適切な支援が微妙に違う。
引き続き19時からの区政会議も教育・こどもに関する部会で、経済格差と教育格差の話題が出る。元校長先生やPTA会長経験者が区政会議の委員なので、学校選択制に複眼視点で意見をもらった。
20時に部会は終わりすっと帰るつもりがデスクワークが終わらず、21時近くまでかかる。飲んだお茶の分、軽くなったカバンを提げて帰った。
帰って豆腐と水餃子と春菊の小鍋を作って「ばけばけ」を観て、机の上に放り出していた「大阪市教育振興基本計画」をめくる。
キャリア教育の記述が相変わらず薄いな。商いのまち・大阪ちゃいますのん。
でも大阪市に来た時より、施策は明らかに進んでる。生野区で作った仕組みを参考に、大阪市総合教育センターが出前授業支援の産官学ネットワークを構築している。区単位では呼べない多彩な企業が登録していて、面白い授業をいくらでも思いつく。
思いついても、教員免許を持たない私がやれるわけじゃない。民間人校長、楽しかった。多国籍料理店のオーナーさんにタイのぜんざいを作ってもらったり、毛糸作家の方と卒業式のコサージュを作ったり。現役プロレスラーやNHKのディレクターからもプロの話を聞かせてもらった。
生野区の時は区内企業と中学生が商品開発をして、実際に売る「次世代の職業体験」をコロナ禍に始めた。今も続いている。港区では再編予定の2中学校が、クルーズ船の乗客向けの観光プランを作って大阪観光局と港湾局にプレゼン予定だ。
公民連携によるキャリア教育は、大阪市に入った12年間やり続けたことと言える。日本の教育は、出口が弱い。多様な進路を知り、自分の適性を伸ばし、失敗しても助けを借りながらやり直せるこどもを育てたかった。
今まさに私はもう一度起業しようとしている。就職と同等に選択肢だと知ってるからだが、多くの人は踏み出さない。起業家教育も明らかに弱い。
一方、「BeyondEXPO2025」ではスタートアップ支援が強調されている。なぜ大阪の教育で、大阪の子を起業家として育てるプログラムを作らないのか。
桃谷中学校の生徒にCreemaの創業者が中学生に「中2のとき隣の席にいた子と起業して、クリエイターのプラットフォームを作った」と語った時、生徒たちは「自分たちにもそんな未来があるかも」と思ったはずだ。お互いに顔を見合って、ざわついた。そこからビジネスモデルの説明を受け、実際に生野区のリゲッタさんに中学生が企画を出して商品を作り、Creemaで販売した。
公教育はお金の話を持ち込むのを嫌う傾向があったけれど、金融教育も入ってきている。今日の築港小の授業も「飲食店を開く」という選択肢をこども達に広げた。
区の事業で残したものを、生野区や港区で育つ強みにしてねと言い残すことしかできない。
もどかしさに浸るまま、寝落ちした。
あと35日。

